DHHが37 Signalsのすべてをエージェントファーストへ
DHHがAI懐疑派からエージェントファースト開発者へ転じるまで
Ruby on Railsの生みの親、37 Signalsの共同創業者、そしてソフトウェア業界で最も主張の強い声の一人であるDavid Heinemeier Hansson(DHH)は、AIコーディングツールに対して完全に180度の方針転換を果たした。The Pragmatic EngineerポッドキャストでGergely Oroszと行ったこの深い対談で、DHHは何が変わり、なぜ変わったのかを詳しく説明している。
オートコンプリート時代への苛立ち: “I found it as we’re trying to have a conversation. You won’t let me finish a sentence. You’re constantly trying. Was this what you meant? Was this what you meant? You’re like, shut the hell up.”(「まるで会話しようとしているのに、文章を書き終えさせてくれない。ずっと『これが言いたかったですか?』と割り込んでくる。うるさい、黙れという感じだ」)タブ補完型AI(Copilot、Cursor)へのDHHの不満は本物だった。経験豊富な開発者は、次の文字を推測するツールを必要としていない。思考する時間が欲しいのだ。
そしてエージェントハーネスがすべてを変えた: Claude Code / Open Codeをターミナルベースのエージェントハーネスとして使い、Opus 4.5(2025年11月リリース)と組み合わせたことが転換点だった。“It produced code I wanted to merge without very much if any alteration and if I did want to do alteration I could tell it and it would remember and it would not make the same mistake next time.”(「ほとんど修正なしにマージしたいと思えるコードを出してくれた。修正が必要な場合でも指示すれば覚えていて、同じミスを繰り返さない」)オートコンプリートから自律的なエージェント実行へのシフト――AIがツール、bashアクセス、インターネット接続を持つ形態――が体験全体を変えた。
エージェントファーストとは、エージェントから始めること: DHHのワークフローは完全に逆転した。以前:エディタを開いてコードを書き、行き詰まったらAIに聞く。今:エージェントに何を作るかを伝え、アウトプットをレビューし、修正を加える。彼は2つのモデルを並行して動かす――上のウィンドウでOpen Code上のGemini K25、下でClaude Code上のOpus――Neovimで届く差分をレビューしながら作業する。
「メックスーツ」の気づき: “Running a bunch of agents feels less like being a project manager for agents and more like stepping into this super mech suit where suddenly I don’t just have two arms. I have 12.”(「複数のエージェントを動かすのは、エージェントのプロジェクトマネージャーになる感覚ではなく、超巨大なメックスーツに乗り込む感覚だ。突然、腕が2本じゃなく12本になる」)これは、Lex FriedmanのポッドキャストでDHH自身が語っていた「エージェントのプロジェクトマネージャーにはなりたくない」という予測を覆すものだった。実際の体験は委任ではなく、超能力のように感じられた。
90分で100件のPRをレビュー: Omachi 3.4のリリース前、DHHは250件の未処理プルリクエストを抱えていた。各PRのURLをClaudeに渡し、90分で100件を処理した――そのままマージしたものも、Claudeにプロジェクトのスタイルに合わせて書き直させたものも、クローズしたものも。手動でレビューすれば何日もかかる作業だった。“This would have been a week’s worth of work, days at the very least.”(「最低でも数日、下手したら一週間分の作業量だった」)
DHHが語るAIとソフトウェアの未来:5つの重要な洞察
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パイは成長ではなく爆発している — 37 Signalsは、以前なら検討すらしなかったプロジェクトに取り組んでいる。あるシニア開発者は、最速1%のリクエスト(P1)のレスポンスタイムを4msから0.5msに改善するため、12件のPRを数日で完成させた。エージェントによる加速がなければ誰も承認しなかった「虚栄心のためのプロジェクト」が、実質的にコストゼロで実現した。
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シニア開発者が最も恩恵を受ける — AIによる最大の加速は、エージェントのアウトプットを本番要件に照らして検証できる最も経験豊富な人材に集中する。Amazonの内部分析では、主要な障害の原因がレビューなしでエージェント生成コードをリリースしたジュニア開発者にあることが判明した。スキルの格差は縮まるのではなく、広がっている。
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「プログラマーのピーク」がすでに来ているかもしれない — DHHは、開発者が実装のボトルネックであるという理由だけでプレミアムな報酬を得られた時代が終わりつつあると主張する。ソフトウェアの生産量は増えるが、制約はセンス、判断力、そして何を作るべきかを知ることへとシフトしている。
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デザインとセンスの価値が高まっている — 37 SignalsではデザイナーがCSSとHTMLも書くプロダクトマネージャーだ。エージェントによる加速は、デザイナーが自分のビジョンをエンドツーエンドで実装できるようになるため、このモデルを業界全体でより実現しやすくしている。美学は贅沢品ではなく、正しさのシグナルだ。
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Ruby on RailsがAIルネッサンスを迎えている — Railsはウェブアプリを構築する際に最もトークン効率の高い方法の一つであり、コンテキストウィンドウとコストが重要なエージェントワークフローに理想的に適している。美しく読みやすいコードはもはや人間のためだけではない。エージェントがより良いアウトプットを生成する助けにもなる。
エージェントファーストに向かう組織にとっての意味
22年間続く60人の会社、37 SignalsでのDHHの経験は、実践的な青写真を示している。同じチームがより安くで同じ仕事をするのではなく、同じチームが劇的に野心的な仕事に取り組む、ということだ。重要な洞察は、エージェントによる加速が既存のタスクを単に速くするだけでなく、以前はコスト的に検討すら不可能だったカテゴリーの仕事を解き放つということだ。エージェントツールへの投資を検討している組織にとって、問うべきは効率ではなく、野心だ。